風のささやき

何処にもない何処かへ

何処にもない何処かへ
いつも帰りたい僕がいる
それが何処にあるのか分からない
僕はいつもただ遠い目をして
その場所を探る

風が吹く
横顔を太陽が照らす
街路樹を見上げる
梢の葉が揺れてその先の空が青い
遥かかなたに白い雲
地上にある僕の生にはすべてが無関心で

僕の帰るべき何処かの
痕跡すらも見えない
その合間にも僕は探る
何処にもない何処か
僕が帰る所と
僕が一人思い定めている何処かを

そこには僕の流してきた
沢山の懐かしく温かい涙
透明な湧き水のように湧いている
その水面に触れる陽ざしが
織り成す陰影は声にならない笑い声の祝福
僕のすべてがありのままに
それで良いのだと背を撫でられている

何処にもない何処かへと
僕は呼ばれている
あるいは僕が呼び起こそうとしている
僕はただそこで静かに目を閉ざし
ただ嬉しくて温かい涙を流していたい
やがて泉が溢れ川の流れとなり
潤す緑の大地に花咲き乱れる野原があることを
甘い香りを運ぶ風自身が色づいている桜色
何処にもない何処かをいつも夢見る
僕は日々の暮らしに傷ついているのだろうか・・・・・

何処にもない何処かを
いつか僕の中に見出して
いつもそこにある何処かに
憩うことをする

僕が誰かの何処かになって
そこに生えた一本の大木となって
あなたがその木蔭に寄りかかって目を瞑る
僕と一緒に憩うことをする

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