風のささやき

湖の印象(高原の夜)

晴れた夜空を明るさで司る満月
湖はその姿をとらえようと見つめ合う
時間の長さには照れてしまうのだろうか
時々は水面をかき乱し月の姿を隠そうとする羞恥心

ずっと見ているよ
暗い夜の時間を
その明るさがどれぐらい
心強く思えたことか

夏の夜の涼しい風吹く高原を
一人歩く昔日の旅人は
月の明るさにどれほど背中慰められて
石ころの多い山道を歩いたのだろう
ほっとするその心持を思う

夜の闇の中に溶け込むことを知る湖
もう湖水の冷たさにはもう
張りつめなくても良いことを

ホッとしている
水面が緩んだ
そこにもれ込む月の光
金色のさざ波の喜び
知っているよ
どれだけの寂しさを湛えていたのか

湖を囲む落葉の木々が
そよそよと風に揺れて囁きだす
押し黙っていた木の葉の言葉

静かに湖の底に
封印されていた祈りの言霊も介抱された
祈りに組み合わされた手が空に浮かび
月の仄かな明るさに素直に照らされた
この生をただより良くと

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