風のささやき

湖の印象(高原の昼)

青い空と峰の雲の映る水面は
掬い上げられることのない虚空の世界
そこにのみ住まう静かな風景に
届く者は誰もいない
その青く冷たい水の下で
横たわる木の幹は古びた化石の背骨のように
夢見ることもない深い眠りにただ沈む

人は眠る前に想像することがあるのだろうか
目覚めない眠りの恐ろしさ
目を覚まさないで眠り続ける者と
また目を覚まし呼びかける声の届かない叫び

落葉松の林の緑は音もなく揺れて静けさを深める
その湖の傍にあっては音を立ててはいけない
その静けさに縁どられ黙することを深める湖は
すべての物を眠らせる冷たい麻酔で満たされている

夏の陽ざしの暑さも奪う高原の風は
いくら吸っても物足りないぐらいの息苦しさで
すべては静けさに飲み込まれて行くため
許されている時間なのか

雲間からは一筋の太陽の光
水面の上に落ちて明るみ
その明かりに促されるように
湖の底から祈りの手が
ゆっくりと浮かび上がってくる
組んだ親指のひたむきさにゆるぎはなく
湖水の底にいつも秘められている祈り

雲間が太陽の陽ざしを隠す
浮かび上がった祈りの手もまた
蒼い湖の水底にその姿を隠した

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