影の中で動く金色の砂の粒
まるで僕を
海の中へ引き戻そうとするかのようだ
海はまだ僕を欲してくれているのだろうか
僕の体にかかる重さがそうすることを拒むのに
温かな波は諦めない
根気よく僕の影を取り込もうと
何度でも足元にやってくる
ブーゲンビリアが風に揺れ
水面に浮かぶ濃い青の蓮の花
白い雲を浮かべる空も
何時しか見た風景に思えて
肌に纏わりつく潮風のような
時間は肌触りなのか
今日の記憶さえも直ぐに
掻き消そうと吹いてくる
汗も波に帰る一滴なのだろうか
まだ体を絞って出るものがあると
太陽が陽ざしを強めたように思える
海からの風に膨らむ赤い旗は
何の目印に砂浜に差されているのか
僕の足元に運ばれた蝉の一枚の翅を
波は舐めつくすように
幾度もその頂に掲げては取りこぼす
海に散っていく命の多さを想像することもできずに
鴎の白い翼よ海から遥かなる高さよ
飛び越えてゆく者も
生の重さに引っ張られ
やっとのこと足掻き空にあるのだと
僕は夢を見るように波を感じ始める
僕はやがて沢山の僕の記憶に混沌とする
崩れかけて行く影を
波は僕の体から少しずつ削り取って行く
僕に苦痛を感じさせずに
眠ったままで海に帰らすといい
蝉の翅の一枚の痕跡も残さないようにと