風のささやき

小さな芽吹き

最初は地面から少しだけ顔を出した
小さな芽吹きであったに違いない
そんな姿を想像出来ない欅の大木の木蔭
真夏の陽ざしを避けながらバスが来るのを待っている

春の陽ざしに呼ばれるように若葉を開く繰り返し
最初はおずおずと初めて世に目を開く赤子の眩しさに
春風に触れてその心地よさにうっとりとして
空の青さに遊びその青さに映えるように

夏には小さな若葉も濃い緑に結び合い
人々を憩わせる木蔭を作ることを学ぶ
焼け焦がすような陽ざしを葉の一枚一枚に受け止めて
長く続く雨の気持ち良さ時として激しい雨粒に耐えながら

秋に色づくことの驚きは自分でも
こんな色に染まることがあるなんて一枚一枚の葉にも表情の違い
意地悪な冷たい風はその色を欲しがって散らし
惜しげなく与えよう沢山の陽ざしの染みた葉を

冬には黙して耐えることを学ぶ
内に力を溜める夢を見ることを覚える
夢見ることの憧れにつぶれない立ち続けることの強さを
新たな芽吹きへとその時が来れば遅れなき準備を

どれぐらいの季節の繰り返しと学びに
小さな芽吹きの欅がこれほどに大きくなるのだろう
それに比べると僕の生はどれほどに混乱と怠惰と物欲しさとに
満たされて学ぶことを忘れて僕は小さすぎる

大きくなることは学び取る経験以外の何物でもない
一つ一つが一度きりの学びの場
悔いを残している時間もあまりにも勿体ないと
そう思う気持ちも学びとることから

僕が一枚の葉っぱだとして
受ける陽ざしも眺める空の色合いも雲も
雨の冷たさも風の肌触りも
すべては移り変わる僕に許された一瞬一瞬の時間

欅はただ学ぶことに専念をして成長を繰り返す祈りの形象
だから僕はこんなにも憧れてその高い梢の先に目を向けて
太い幹に持たれひんやりとする肌に癒され教えて欲しいと
今僕の頭上の葉がざわめいたきっと学ぶことの喜びに震え