渡り廊下の写し鏡の中に映った自分の姿
思いがけない場所で自分に出会い立ち止まる
そこにいるのが誰なのかを確認してしまう
突然に覗き込んだ鏡の中の自分が
不意打ちでさらけ出していた暗然たる顔の正体を
まざまざと見せられてぞっとした
不可思議に思う誰なのかを改めて問う
帰ってくるのは予想通りの冴えない受け答えだ
口ごもって言い訳に満ちて
突然に肩を叩かれても見せられるように
明るい笑顔をいつでも準備して
張りのある大きな声の挨拶を用意して
ああ言われたらこう答えようと
夢の中でもうなされながら
取り繕いのための準備を怠らない僕がいて
けれど不意に来られたらこの様だ
準備した言葉もすっかりと剥げ落ちている
心の奥底に隠した陰鬱な顔をさらけ出す僕がいる
ああ良かったこんな都会の片隅の廊下で
誰も見ていないたとえ見られたとしても
誰も気にする人はいなくて
自分のことで精一杯すぎて
人への関心はとても持てなくて
湿っぽい顔は見慣れているから周りにも自分の中にも
不意の出来事にまだ驚いたままの鼓動を
少し乱れた息の自分を落ち着かせて
鏡の前の僕に向かってまた僕は準備を始める
今さら何もない自分を取り繕うための
格好の良い言い訳の言葉を探し始める
その取り繕いと言い訳とが
いつの間にか自分の生きる術になり
やるせなさ一杯の顔で生きていくこと
痛いほど分かるのにもう止められないんだ