静かな電車の中で突然
言い争う声が聞こえてきた
背中から浴びせかけられた
棘のある言葉にひやりとして
思わず耳を傾けて成り行きを聞いた
押してくるなとか
そちらから押したのだろうとの押し問答
誰も聞きたくはないいい年をした
会社帰りの大人同士の言い争い
少しはお酒も入っているのかな
それで勢い言葉を
止めることもできなくなったのかな
もう簡単には自分から折れることもできなくなって
言葉もさらに激しくなって
皆が白い目で見ていることも
感じているのに頭は下げられない
今日は会社で嫌なことがあったのかな
上手く行かないことが多すぎで
暗い思いで頭が一杯になっているのかな
それとも体に悪い所があって
立っていることさえ辛かったりしたのかな
きっとみんな疲れている時があって
気分がイライラしている時もあって
けれどそれを誰にも言えずに
黙って我慢している胸の内の黒い塊
ぶつけ合ってしまった口喧嘩
本当は分かって欲しいのに
相手のことを分かりたいとも思うのに
もう相手を傷つけることだけしか
頭には思い浮かばなくて
やがては見かねた誰かが
止めてくれたその喧嘩
きっと自分では止められない言葉を
ホッとしながら引っ込めた
その照れ隠しに更なる悪態をつきながら
やがて電車はまた
レールの軋む音に満たされた
もう僕は次の駅で降りたい気分でいた
口の中に残ったままの後味の悪さ
自分の胸の内の黒い塊が
ジンジンと大きくなって破裂しそうで
みんな疲れているんだ
少しよろけてぶつかる肩があれば
支えてあげられれば楽になれるのにと
自分に言い聞かせたりをした