風のささやき

夏の青空に

どうしていいか少し
分からなくなっていた僕の耳に
ふと静けさが訪れた
人だらけの交差点の騒音が
どこか一目散に逃げ去ったように
肌の上から汗も失せた気分で

頭の上の葉っぱの揺れる音が
はっきりと聞き取れた
どこか眠たげで
まだ午睡のまどろみにいるかのような

―素直になると良い
 難しく考えずに
 心を解くと良い

僕を呼ぶ声がどこかから聞こえて
僕の心が一斉に音を立てて散けた
こんなにも僕は
様々な思いを閉じ込めていたと
今更ながらに気がつく

それは久しぶりの夏の空の声
どこか鷹揚で思いやりにあふれ
僕がここのところあまりにも
下を向いているから

下を向いている時にも
僕のことを気に留めて
ビルの合間の窓の反射光さえも
一つの合図として声をかける

そうして向かいあう夏の空に
静けさを取り戻し心は
一つ息をつき

繰り返すまた問いは
僕らが何故ここにいるのかの不可思議
その不安と足掻く自分の滑稽と
この地に結ばれている有り難さと

僕が心の限りを吐きだしたとして
僕の心の限りは高が知れているとして
夏の空は汚れない
新鮮なままだ

どれだけの言葉がそこに向けられたか
それを飲みこんで
飲みこんでこそ
青い空は僕の言葉を呼び

だから僕はまた
夏の青空を見上げてしまう
憧れはいつもそこにある

心に起こりくる全てのことを
僕の物として肯うこととし
人には言えぬ説くこともできぬ
僕の心のそのままを青空に捧げる