風のささやき

寝顔

まだ無邪気さを残す
子供の寝顔を見ていると
まるで小さな自分の顔を
見ているような錯覚にふと捕らわれて
闇の中でそっとその頭を撫でてみる
跳ね上がった髪を押さえ
その後は膨らみのある頬っぺたを

―それは子供への愛情なのか
 過ぎてしまった自分の時間を
 労わる作業なのか

いつの間にか長くなった手足を
布団一杯に伸ばし
寝相も悪く時々は
僕のお腹を蹴飛ばしたりして

その割にはまだ甘えたいままの
体は心を追い越すように成長をして
幼いままに置き去りになった
心は急に社会の仕来たりに
鞭打たれては涙をこぼして

僕はその都度に思い出す
忘れていた記憶を
まざまざと今の出来ごとのように
少し寂しい微笑を持って

あの時にこうすれば良かったと
取り戻せない後悔は常につきまとい
子供の上に自分の軌跡を重ね合わせて
なぞり直す作業にも似て

けれど子供に僕の澱をべったりと
塗りつけないように
彼はいつの間にか早くなった足で
一人走り出しているのだから

―その後ろ姿が頼もしくもあり
 いつまでも背中を押し続けられない
 自分は十分に意識されていて

一人の人の生を
母さん あなたもこんな真剣に
思っていましたか
それは先の見えない
不安でもあり楽しみでもあり
いつでも僕の先を行く
あなたの面影にはまだ
教えられることばかりです