風のささやき

赤子の微笑

赤子の微笑みに向き合っている
いつか僕も浮かべていた笑顔
ただ嬉しいだけの
ただ幸せなだけの
 
赤子の微笑みに向き合っていると
いつしか僕も時間を失う
ただ暖かなだけの
ただまぶしい陽ざしだけに満ちている
 
名前を呼ぶと反応をする赤子
目が合い浮かぶその微笑は
ただこちらを招くだけの 
ただ抱きしめて欲しいだけの
 
赤子の微笑には沢山の物が
触ろうとやってくる
風も陽射しも花も虫も 
絵本からも手を差し出す犬や猫もいる
 
赤子の微笑みに向き合っていると
心に滲みだす汚れを思う
いつの間にか落ちなくなっている
それを人は生きる知恵とも言い

赤子の微笑みに向き合っていると
自分の努力がそれを取り戻すためのものだと実感をする
生きながらえてなお
人を幸せにするだけの微笑
―そこに言葉も必要は無い

赤子が気分を害して一頻り泣いた
それもさっぱりとした夕立のように
赤子は抱かれ僕の腕の中で
何事もなかったように笑う

ただ嬉しいだけの
ただ幸せなだけの
誰よりも良い手本の笑顔を
僕は胸に刻みつけている