風のささやき

秋の日に

風に金糸の刺繍で
秋は金色の耳を縫い付けた
誰も聞かない僕の独り言を聞くために
つまらない泣き言
冴えない溜息なのに
そんなにも我慢強く
何の見返りも求めずに

秋は丸い瞳をゆっくりと開いた
金色の涙が幾粒も幾粒も零れ
それは風景に注ぎ染み込んだ
 
少しずつ色を変え葉を落とす木々は
飾り立てた言葉を散らして行く
年老いた人にも似ている 
一つ一つと言葉を落とし尽くして
丸裸になる形象は 
痩せ衰えて冷たい風に晒される骸骨なのか
ブロンズのように鈍く光る
二つと無い生命の造形なのか

柔らかい口を開けて
秋は琥珀色の言葉で囁いた
素直なままに
弄ばれるがままに
汲々として焦燥に駆られ
それでも
秋空に流れる凛とした調べに澄み
心の奥底を読み解きながらと

僕の胸の内にはそうして
金色の秋の顔が静かに静かに花開いた
覚束ない僕の足取りを見つめている
ただ押し黙って
どこまでも遠い処に咲いているその顔
けれど目を瞑れば浮かんでくるその顔

やがてその顔が自分の顔と重なり
静かな微笑が波紋のように広がる時に
僕の体は金色に沸き立ち
泡となって帰ってゆく秋に
その色合いの一つとなって
うっとりと酔いしれながら