風のささやき

鬼灯

祭りを告げる号砲が
けたたましく鳴って
耳の奥がジンジンと熱くなった
驚いてぎゅっと握った子供の手

紺色の浴衣を着た少女が
鬼灯の鉢植えを買った
丁寧に編み込まれたその髪の毛には
夕暮れの涼しい風が櫛を当てた
白いビニールの袋の中で
嬉しそうに揺られている鬼灯

鬼灯から生まれ落ちたような
鬼灯と同じ色の金魚
小さな子供に掬われた
さっきまで何度か逃れていた
狙われ続けたその鮮やかな赤い肌

綿菓子の味が何故にあんなにも
心まであまくしたのだろう
それを欲しいと地団駄を踏む子供の
気持ちを今は遠くに探るだけで

鬼灯の色をして落ちて行く夕日を
手の中に入れた赤い水風船
手のひらに跳ね返るゴムの感触を
しばらくは楽しんで飽きた子供は
的当ての景品に
今度は心をひかれている

道行く人々の顔には笑顔
すべてが一晩の
楽しい夢の中の出来事
夏の夜の幻灯機に映し出された
幻想のように色鮮やかに
この世のものとも思われない
人々の姿はどこか透き通り
どれだけの仮装した
狐や狸も混ざっていることだろう

―ねえ おばあちゃん
 実を割らずに鬼灯の中身を取りだすのは
 随分と難しいよね
 どうしてそんなに上手に出来るの

祖母の手から渡されて
口に入れ膨らませた鬼灯遊び
口の中で直ぐにつぶれた鬼灯は
どこかほろ苦い味がしていた

空に浮かんだ一瞬の花火
鮮やか過ぎる目が信じられなくなり
寂しくなって舌を打つ代わり
口の中で鬼灯をつぶす真似をした