風のささやき

風鈴

嗚呼 風鈴がなっている
 氷のように透明な音が涼しい
  どこかこの世の物ではないような
   消えて行く命への鎮魂の調べのような

それは呼び鈴
 いつの間にか眠っていた
  僕を呼び起こすための風の手による
   汗が手の甲をしっとりと濡らした

目覚めと眠りとの継ぎ目は
 こんなにもあやふやで
  時として夢うつつ
   両方の世界に足を踏み入れながら

この世から忽然とある日
 いなくなるときの何処かへも
  こんな風に軽やかに
   超えられるものなのだろうか

目の中に広がる青空は
 こんな色をしていたのかしら
  僕が夏休みに見上げ見惚れていた
   赤とんぼがすいすい飛んだ空の背景

ねえ 帰って来て欲しい
 蝉の声がする林の奥の方から
  僕の知る笑顔を引き連れて
   まるで買い物に出かけていたような素振りで

おじいちゃんも
 おばあちゃんも
  そうして母親さえも
   どこかへ行ったきりもう帰らない

いつまでも一緒だと
 疑いもしなかったのに
  いつからか疑いだして
   仕方がないと諦める大人にはなったが

ねえ 帰って来て欲しい
 諦めきれない心が叫ぶ時もある
  虚勢を張れない心はこんなにも弱く
   涙に滲んだ青空は何故に黙ったままで

嗚呼 風鈴がなっている
 それは呼び鈴
  呼び起こされる懐かしい心
   素直な心は子供の頃のままに

風鈴の音色は心模様
 高鳴りながらも諦めて
  寂しさで一杯になって
   懐かしい面影を
    一つ一つ呼んでいる僕の