風のささやき

クリスマスの夜に

どこからか鐘の音が聞こえてくる
人の手による物ではないような
頭の中に直接鳴り響くような

遠く雪の舞い落ちる場所で
休みを過ごしている
子供たちにもこの穏やかな
鐘の音が届くといいのに

プレゼントを受け取り子供たちは
電話口にも興奮をしていた
サンタさんを見たとも言っていた

郵便受けにはクリスマスカードが届いていた
懐かしいその文字は遠い異国からの息遣い
普段は忙しくて思い出せない人を
思い出した優しい時間の合間に綴った

僕は時計を眺めている
この前買ったばかりの自分への贈り物
僕の腕に休まない秒針が
時計台の時刻を追いかけている

クリスマスツリーのイルミネーションは
今日の日のために色とりどりに燃え上がり
今日の日の終わりにと燃え尽きて行く

飾りを取り払われる樅の木は
身を横たえて何処かへと運ばれて行き
その頂上の星は留まる場所を失くし
流れ星のように何処かへと燃え尽きて行く

何事も無かった日常と重なり
今宵の終わりには過去に流れ込んでしまう
クリスマスの夜の賑やかな故の寂しさ
マッチ売りの少女の炎の中の出来事のように
まるで幻影でもあったかのように

いつでも僕は去り行くものの後姿を見ている
それを寂しく思い
遠ざかって行くもののために祈りたくも思う
留めておくことはできないと
この身を持って知っているはずなのに

誰にも知られずに
忘れられて行くものの心細さには
この身を寄せて眠りたくなる
そうして自分自身が
捨てられた犬のように寂しくなりすぎて
居ても立ってもいられなくなる
悪い癖
執着とは分かってはいるのに

けれど消えて行く一つ一つが
人類の記憶に溶け込んで
新しい人々のために用意される
贈り物としてあるのなら
せめては消えて行く一つ一つの瞬間に
温かいものを注ぎ込んで

人は人に
だから優しくなれるのかも知れない
肩をそっと抱いて
寄り添いあえるのかも知れない
喪失の逃れられない寂しさを
共に分かち合っているのだから