風のささやき

巡礼

骨と皮だけに細長く乾いた自分の影を
汚れた襤褸の袈裟のように引きずって
無言で俯き目を伏せて
近づいてくるものを見ることもなく

生まれ育った記憶もすべてが吹き消され
何も起きない心で
歩むことばかりを知っているからくり人形のように
その意味を知らずに足を運ぶ

歩む道は夕陽に照らされた薄橙の平板の坂
滑りやすいどこまでも滑って行って
知らない町の明りさえも通り過ぎて
夜の闇さえも通り過ぎて

僕の歩みを止めてくれる
その場所が無いと分かっているとして
夕餉の匂いの人の世の懐かしさにも
嘯いて見せる真っ白な髪の毛を風にさらして

黄色い骨を削りながら墓標を立てる
すっくりと立つ銀色の刀の用な
キラキラとして触る風さえも切り裂くものとして
墓碑に刻みつける言葉は
僕から忘れられて剥がれおちて行く
さようなら
さようならの数

それでいて諦めではない澄んだ秋の先の
水晶のような瞳に映る透明な懺悔の促しを
僧侶のようにゆっくりとゆったりと
進んで行きたい衝動に早鐘を鳴らされながら
すべてのものを打ち捨ててでもという巡礼に
何故にこんなに促される心が寂しくて咳をする