風のささやき

秋の欅に

青い海の底に泳いでいる
幾千匹もの黄色い魚の兄弟たち
もつれ合う流線型の体から
零れ落ちる鱗のような
柔らかな秋の木漏れ日

笑っている
それぞれの魚が
体が擦れることがくすぐったくて
あるいは明るい陽射しが眩し過ぎて
笑い声は梢一杯に木霊している

白い雲の浮島をそっと運ぶのは
髪揺らす透明な風の細波
その影を地面が余す事なく写し取っている

言葉はもどかしい
僕は探せないでいるから
この景色を描き出すための
言葉の積み木
僕の胸に散らばった言葉は
破片

絵描きであればその絵筆で
真っ白なキャンパスを
色鮮やかに染めることも可能だろうに

その水面の楽しさに憧れるだけの僕は
釣竿を持たない釣り人となって
落ちて来る魚を待つだけだ

黄色く乾いた体をそっと手に乗せて
真っ直ぐな葉脈をなぞった
この一年を過ごした丈夫な背骨