風のささやき

秋の午後に

小さな手で子供が
ドングリを拾って僕に見せ笑った
その陽のあたった顔が眩しかった

それは丸いドングリ
まだベレー帽を被ったままの
きっと今さっき落ちたばかりの

今年の年月を
包み込んだその小さな実
子供は大切にポケットにしまった
時々はその丸みを
ズボンの上から確認しながら
ママに見せる大切なお土産
頭の上のくぬぎからの贈り物

木々は太陽の陽ざしを
写し取ったような黄金色に染まり
僕の影が青く透き通って行く午後だ
どこか懐かしい風景に
僕はただただ静かに微笑むしか
いられなくなっている

僕の中に揺れる愛おしさ
窓からの風が
そっとカーテンを押したように
その光と影との戯れの中に
こっそりと潜んでいる

愛しさと懐かしさはどこか似ている
それは遠のいて行く感触
近づこうとすればするほど
離れて行く距離への
諦めきれない音信
少しの涙で封をした

子供が手をつなぎに寄ってくる
走りすぎた息を弾ませて
もう家に帰りたいという
おやつを食べたくなったらしい

風よ
僕の心を何処までも運べるならば
透き通って行った
空の向こうの母に
会いたくなったと
伝えてくれ