風のささやき

夏の朝に

汗がゆっくりと
肌の上を流れて行く
年を重ねて皺深い肌だ
物憂く

僕を寝苦しくする
悔い残る出来事が
重なりもつれた夢
混乱だけがそこにある
毎日の日常と何も変わらず

風が止んだ
夏の陽射しに睨みを効かせられ
木々の葉っぱもその影も
ひっそりとして動かない

すべてのものは
夏の暑さにとけてしまい
どこかへ吸い込まれて行くのではないか
光の粒となって

向日葵を探しに行くと
最後に言い残した子供は
もう朝霧の中へ消えて帰らない

白い浴衣に紫の鉄線花を咲かせた人の
髪がまだ濡れているように光っていたのは
流してきた涙の洗い髪

銭湯からの帰り道に手をつないだ
母の姿に重なって見えた
その眼差しは何処を
見ていたのだろうか

赤い尾ひれの小さな金魚が
もういなくなった金魚蜂
やる気を失くした水草だけが
ぬるい水の中にひっそりと生き続けている

僕は鎮痛剤のように寂しさを嗅いで
また夢の中に入り込もうとする

空の青さの淵に沈んで行くように
底無しに悲しかった