風のささやき

夏の駅で

今まさに電車は行き過ぎたところ
時計を眺めれば
次の電車までの時間はまだ大分ある

夏雲
青い空
照りつける太陽
動きを止めて休む
回送列車の銀色の肌
汗ばむ人々は日陰に言葉を交わし

熱風が吹いて向かいあう夏草が
戯れているように見える
ちょっかいを出しあいながら
いつまでも笑い合っている

その他愛の無い様子は苛立たしい
僕はいつからか
素直に笑うことを忘れている

胸の中には
夏の太陽に焼かれた
熱いレールのような怒りが
いつでも沸々と沸きたっている

いつまでも遠くにある
この頭上の夏空のように
手の届かない憧れのあまりの遥かさ
徒労を重ねる無力な自分に
僕を追い立てる時間に
僕を見つめるたくさんの視線に

押し黙るうちに
怒りはいつしか僕の中に凝縮されて
地獄の業火の種火のように
僕の中に入ってくるものに火をつける

―それを正義と呼んでいた僕もいた

その夜
黒い雲が街を覆い
激しい雷が大気を貫いて過ぎた