風のささやき

初夏の病室で

初夏の光がしなやかな指先となって
短く刈りあげられた髪の毛を
ゆっくりと撫でている

少し開けられた窓から訪れる風は
白い天使の姿にも似て
体を包み込んでくれる
真っ白な羽根の温もりに
眠りを覚える目には
もうその力に逆らう術もなく
白い病床に横になり眠れ

涙の跡の乾かない
泣き顔の表情も途絶え
体から力が抜けた
居座り続ける痛みだけが時折
ピクリと動くまつ毛を通じて伝わってくる

知らぬ間に入り込んだ異質な病気に
心細くなり泣いていた小さな体
泣きごとを言う口も閉ざされて
それを説得する言葉も途絶え
ようやく静けさが訪れた初夏の病室

僕らにできることは
その痛みを受け止めてあげることだけ
不安な心を押し殺して
と知る

添い寝をする僕は光の指先を真似て
汗ばんだ濡れた髪を撫で
癒しを与えてくれる力を
病室に呼び寄せられればと
青い空の向こうに声をかけている

時々聞こえてくる
他の部屋からの泣き声と
林の中の鳥の鳴き声と

僕もきっと誰かに見守られながら
生きてきたのだろう
それに気がつかないだけで

見守ることも随分と
忍耐のいる仕事だと思う

初夏の風はいつしか
僕をもその羽根に抱き込んで
まどろんでいた僕の髪に
母の指が触れていた気がした