風のささやき

春の日に

いつの間にか葉桜の木陰
足元には桜色の花びらの化石
悪戯に吹いてくる春の風に
君の笑顔がもどかしい

透明な素顔に触れられない
呼吸が水の中のように苦しい
ゴボゴボと水泡を吐きだして
何かの丈夫で透明な膜が
僕らの間の邪魔をしている

春の空の長閑な青さの下でも
黄色い菜の花のキャンパスの上でも
ビルの日向と日蔭のコントラストにも
いつでも感じている

ゴムのようにも伸びて
君がざらざらとした手触りで
蜉蝣の翅のような虹色の
僕を覆って気怠く疲れさせる

陽光に君の言葉
キラキラと輝いては
目の前ではじけ飛ぶシャボン玉
何一つ届いてはいない
その遠い音信に答える
一人ぼっちの言葉の投げやりに

君の前で突然に僕は
滅びてみたくなる
力なく笑うこの顔に
気づく様子もない君の素振りは
心臓に突き刺された止めの刃物

もう立ったまま
普通に歩いたまま
息をしたまままで
きっとこの世にいないんだ
僕は

もうそれでいい
足掻くことにはもう飽いてしまった
背筋を伸ばせと未だ背中に感じている
陽ざしの温もりが疎ましくて