風のささやき

春の楽しみ

自分を春風に渡して
僕が失われていく春との戯れは
少し寂しくて軽やかな
透明になる遊び

   ○

菫がかたまって咲いている
まるで遠足の子供のように
賑やかで
きっと邪魔をしてはいけない

   ○

春の小川を日長
見ている

どれだけおしゃべりか
けれど疲れない

水面に姿を映す
僕のことも少しは話題に
取り上げてくれればいいのに

   ○

菜の花の中で
忙しい蝶も蜂も
僕がいることには
気がつかない
僕も黄色に染まっているから

   ○

僕の知らないところで
風に吹かれて散る
桜吹雪に身を潜めるための巡礼に
直ぐにでも出かけたい

   ○

硬くなった大地を
春の雨が柔らかくしたぬかるみ

子供の足跡と
誰かが滑った跡と

せっかくの春の仕事
僕は横に避けて通ろう

  ○

ビー玉が春の陽ざしを集めている
まるで自ずから光が集まり
丸くなったようで

僕の中にも集まって丸くなる
光るものがあるか

   ○

一人ぼっちの星が
僕を見落としている
春の宵闇に誰にも知られない
僕は口笛を吹く