風のささやき

春一番

春一番が吹いたのだと
満員電車の車内モニターで知る夜
隣の人の肩に押されながら
僕はまた季節に
遅れを取っていたことを知る
冬の重いコートに身を包み
少し汗ばみながら

そう言えば今日は一日
外に出ることもなかった
大して大切でもないことで
気難しい顔をして
議論をしたりして

それよりも季節の移り変わり
その一瞬一瞬の印象を
目に鼻に耳に口に
そうして肌に心に感じながら
過ごせればいいと夢のような話
考えているうちに電車は僕を
そのドアから吐き出して

家路へと俯く
夜の闇につつまれた体に
春の気配を感じとろうと集中をして
置き去りにされた時間を撒き戻そうとする
僕の悪あがきは続き

こうして僕は一生の間
季節とのいたちごっこを続けて行くのかな

明日穏やかな風が吹く午後になれば
ベンチに腰掛けそっと目を閉じ
風の流れに身を紛れ込ませ
この身を軽やかに透き通らせていよう