風のささやき

雪祭り

白い雪を汚して人が通り過ぎると
その証拠にと雪が
靴底の形を写し取ると
その靴跡にはまた別の靴跡が重なり
足元には湿り気を帯びた冷たい雪の感触

幾つもの台所を持ち込んだような匂いを連れて
並んだ屋台が食欲を刺激する
子供たちはあちらこちらに
顔を向けて落ち着きもなく
その値段を見てギョッとするのは大人ばかりで

賑やかな笛の音は何かの大道芸の
人だかりが激しくて
肩車をしても見せられない
子供がむずかるので
その前は通り過ぎることとして

空に雪は舞っている
人の世には縛られることもなく
自由に昇っては落ちる
終わり辿れない灰色の世界で

犬の彫像の上に乗せると
子供たちは大はしゃぎで
それでもお尻が冷たいと言い
降ろして欲しいと手を伸ばし

小山に上らせれば
滑り降りてくるその勢いに
たらした鼻を服で拭い
飛び散った雪に濡れたズボンが寒いと
まただだを捏ねられて

やがて待ちわびた
冬の花火があがる
以前この花火を見たのは
祖母の葬儀の後だった
涙で歪んでいた花火
鼻の奥がツーンと冷たく
唇を真一文字に閉じていた
今は子供を抱きながら
笑顔で眺めている鮮やかな天上の花

雪祭りは束の間の
白き雪の上に作り出された
不思議な幻想の世界
雪に帰って行く彫像に思いを託し
ささやかな喜びで生活を彩る

降り止まない雪の静けさと
それには似つかわしくない
人混みの賑わいとの狭間に心を漂わせ
通り過ぎてゆく笑顔の印象に
心地よく擽られながら
人の生を愛しく感じていた