風のささやき

冬の陽射し

冬の陽射しが床に広がる
薬缶が沸騰して蒸気の悲鳴をあげる
家の中は乾燥しているから
少し可哀想だがそのままにしておこう
喉も渇いている

冬の陽射しは動かない
静かに明るむだけだ
老婆の穏やかな微笑みのように

小さな黒い虫が部屋の中を飛ぶ
邪魔をしない冬の陽射しに
その身を更に軽くして

いつの間にかまどろみかけて
床のタイルは千変万化する模様
子供の乗った船が青い波に漕ぎだし
いつの間にか犬になり走る
羊の形の雲でスカートの少女がけんけんをする

三角帽の丸顔を竜が踏みつけて
大きく開かれた赤い口に
飲み込まれそうになり
驚き目を開ければ
頬杖をついた重たい顔に
テーブルの木目が迫っていた

意識はひとところに留まらず移ろう
どこへ流れようとするのか
迷い定まらぬままに
次の生へとうつろうのか

願わくはこの生には
美しい幻を見続けていたい
愛とか夢とか幸いとか

沸騰をした薬缶はもう限界だと
蒸気をあげている