風のささやき

病の子供

病の子供は
やたらと甘えてみせる
熱に潤んで少しぼんやりとした目で

普段一人で出来ることも
出来ないといっては駄々をこねる
殊更に我侭なことを言っては
ほとほとこちらを困らせる

きつく抱きついて離れないので
その体を包み込んであげると
安心したかのように
体の力が抜けてゆくのが分かる

その後に残る笑顔は砂金のようだ
続く眠りは御仏の静けさをたたえ

僕も確かにそうだった
弱った心は直ぐに涙を浮かべて
母の仕草や声の一つ一つが
やたらと優しかった

額に置かれた手が
ひんやりとそれでいて温かだった
口に運んでくれたお粥が
恥ずかしくも美味しかった

病気は壊してくれるのかも知れない
元気な時には
意地が吊り上げて崩れない壁
人と人との間に
気付かぬ間に屹立してしまう

食後の
蜜柑の缶詰は
やたら甘く感じられた
母の優しさはシロップよりも倍甘く
それを素直に心が
味わい感じ取っていたから

今は眠ってしまった子供の頭を
僕はゆっくりと撫ぜて
今日の一日を終わらせようとしている

そういえば
僕はここのところずっと病気なのかしら
人の心が染み入って
有難くてしょうがない時が多いのだから