風のささやき

絵本を読む子

「絵本読んであげるね」と
まだ布団の中でグズグズとしていた僕の枕元で
子供が赤鬼の絵本を読み始めた

お母さんがいなくなって
捜しているお話し
昨日の夜も寝る前に読んだ本だ

ところどころ飛ばしてはいるが
それでも話はつながっている
抑揚のつけ方も上手で

もうすぐ三歳になる子供は
こんなこともできるようになるんだと
一年前からは想像もできない姿に
ビックリとしている

彼らのために注ぎ込まれた愛情と
費やされた時間とを
きっちりと自分の中で養分にして
子供は気がつけばこんなに成長している
年老いる僕らを
明日にでも置いてきぼりにする勢いで

子供たちに分かち与えた時間に
もうお釣りがついて戻ってきた
惜しみなく分かち与えた時間は
いつしか分かち与えられるものだと

僕は赤鬼の物語を
まどろみに任せて聞いていた
僕が起きようとしないせいか
本を読むことをやめて不意に
子供は出て行ってしまったが
その声はしばらく僕の耳に温かくあった

ほんとうは君たちが生まれた時から
僕は喜びを与えられるばかり
君たちに返すお釣りに
僕の首が回らないんだよと
思いながらも