風のささやき

あなたに

たくさんの人で賑わう
まだ朝食の匂い立ち込める
日曜の朝のマルシェ

花売りのお店の中で
一際目立つカサブランカを見つけたように
ハッとしてそこにあなたがいて

顔を近づけるとむせかえるような
香り立つ匂いに
胸の中から甘くなって

僕はそのまま身動きができずに
青い空の下にたたずんだ
まるで大きな木にでもなったように
空に吸い込まれて行く
繁る葉の快い身震いを感じながら

すれ違う人々は
すべてが異国の言葉を話し
僕の上っ面に滑り
耳にまでは届かず

ただあなたの声だけが
耳の奥で鳴り響いていた
初めて聞くのにどこか懐かしい
優しい陽射しの歌声のように

僕はその笑顔を
見たことがあるような気がして
あなたの瞳を覗き込んだとき
あなたは映し鏡のように
僕の瞳を眺めこんでいた

記憶の扉の奥に眠るものを弄れば
いくらでもその奥のほうへと
招き入れられるようで
僕はもう潜り込むことを止め

いつからあなたはそこにいたの
僕が来るずっと前から
僕が気づかなかっただけなの
僕は随分と眠っていたような気分で

そこにいるあなたに
朝日のように真っ白な
感謝を捧げていた