風のささやき

お祭りの夜に

子供たちはそのポスターを見るたびに
お祭りだと楽しみにしていた
何気ない地元の小さなお祭り

もう何年も続いているのだという
踊りが中心の
ただ僕が知らずにいただけの

だって僕はいつでも
そんなことをやって何が楽しいのだろうと
斜に構えて思っていたから
時間の無駄だと心の中で
憎まれ口をたたきながら。

その日の子供たちは
朝からお祭りを気にしていたっけ
太鼓の音が響いてきた夕方には
どこかそわそわとして
出かけるよと言うと
蜘蛛の子を散らすように玄関まで駆けて行き
左右反対に靴を履いてみたりして

駅前の通り
親の腕に抱かれて眺める
阿波踊りの集団の熱気
その一つ一つの音や動きを
興味津々に眺めている
その輝いた眼差しの方が
僕には面白くあったのだけれど

そうして一休みをして
綿菓子を食べたベンチの上の時間
美味しい体験が顔に零れるのを
綿菓子を横取りしながら眺めたりして

背中には踊る人の群れが
足を踏み鳴らしている

僕はいつでも焦っていた
こんな時間の空白は
必死に埋めなければいけないと
何かが僕の耳元で
いつも煽り立てていたから

ほんとうは人生に無駄な時間なんて
何一つないのだろうに
迷いの中で積み重なる
すべての生の記憶が
僕に歌声を与える
それだけが奪われない僕のものとして。

まだ踊りが終る気配もない中で
子供たちはもうおねむ

家に帰るとじいちゃんに
お祭りのことをたどたどしくも
早速まくしたてていた。