風のささやき

夕暮れる駐車場で

グッスリと眠ってしまった子供たちを乗せた
車を駐車場の一角に止めた
買い物をして帰るため

エンジンを切るその前に窓を開け
僕は子供たちと一緒に残った

一年で一番昼間が長い時分だが
もう夕暮れ時が迫っている
今日も随分と暑い一日だった

そのことを思わせないような
穏やかな風が
深い眠りの中にいる
子供たちの横顔をなめて行く

木々もホッとしたような素振りで
肩の力の抜けた枝を動かしている

僕の胸の内も静かだ
大きな出来事は何もなかった
絵にかいたような平凡な一日

子供たちは芝生の上で走り回っていたっけ
随分と足も速くなった
その割には相も変わらず兎や馬を怖がっていた
川の水はまだまだ冷たくて
思った以上に水遊びには消極的だった

今日の出来事が大きな塊となって
頭を重たく鈍くしていく
僕もうとうと眠くなってしまう
ガードマンとしては失格だが
こんな夕暮れに染まってしまえば人は
きっと悪い気持ちを
起こさないであろうこと信じて

平凡な日々を嫌っていた僕がいた
それではどんな毎日が
毎朝の僕の窓を
叩くこと期待していたのだろう

身を焦がすような毎日
けれどその炎威に耐えられる人はきっと少なくて
今は平凡な毎日を
長く続けていくための労苦を負っている

平凡な毎日の中にも
修羅のような心も訪れる
小さいけれど
僕の心を震わせるに十分な驚きもある
代り映えのない日々も
身を焦がすには十分で

昔の僕の顔が
フロントガラスを横切った
赤く燃えた髪の奥に光る目が
どこか寂しそうに僕を見つめていた

その眼差しを見据えられるだけの
僕もいつしか瞳になっていた
それがいいことなのかどうかは
未だにわからないのだけれど