風のささやき

とある夜に

窓の外ではきっと
雨が降っているのだろう
しっとりと濡れた気配と
物静かな雨音がしている

いつからか僕はこんなにも
隔てられてしまったのだろう
夢から

もう僕を置いて行かないでくれと
今すぐにでも夢の中
僕を奪い去ってくれと懇願する
そのそばから移り変わる映像は
未練と不安と憧れとが描く抽象画

夢の中で手を伸ばす
僕の腕はあまりにも短くて遅い
すっかりとやせ細った
老木の枯れ枝のように
何物をもつかむ力を持たないで

夢も現実もさほど変わらなかった時分
24時間が僕の充実した時間だった
夢と目覚めとを軽々と行き来して
確かに丸々と
僕は一日を生きていた

乾いてしまった喉からあがる声は
あまりにも稚拙に生きてきてしまった後悔の
取り戻せない時間にあてた叫び声

いつしか雨音は
僕の寝息と入り混じって
憂いを帯びて
闇の匂いを強め

現実の僕は
小さな子供の足に
蹴られて目を覚まし
傍らに静かに眠る
子供の顔を眺めている
その汗ばんだ髪を撫でている

子どもは僕の
泣き言のような寝言に気づいたろうか
長く生きた分だけ大人は
憂鬱が一杯につまった生き物だということを
改めて知る