風のささやき

夏の終わりに

夏の終わりの匂いのする
三本の大きな白い羽根が
一層高く空を持ち上げようとしていた

どこまで遠く羽ばたいていこうとするのだろう
今でさえ充分に届かない距離なのに

狭い牛舎の白と黒の牛が
退屈なあくびに涙を流す頃
バスはゆっくりと坂道を上っていく

僕の他には何人も乗せないバス
山を越えて海沿いに向かおうと
一人エンジンを奮い立たせている震動が
確かに背中に伝わって眠くなる

段々畑でこまめに働いている
日焼けした人たち
その顔は大地からもらった
エネルギーで満ちていた
流した汗は畑の肥やしとして染み込み

僕は自分の青白い手を眺めながら
何故か少し恥ずかしい思いを感じていた

僕にもし他の暮らしがあったのならば
土とまじりあう仕事を選んだのだろうかと
その時の僕のシルエットになった顔立ちを
頭に浮かべようと悪あがきしながら

いつの間にかウトウトとしていた
むいたばかりのトウモロコシのように
ニッと笑った新鮮な
少年の顔が浮かんでは消え

ころげまわるようにして
坂道をおりてきたその勢いは
何所へ走って行こうとするのだろう

もう夏休みの宿題は
終わったのだろうか心配になる

そう言えば僕も蜂の巣を取ってきて
蜂の子が成虫になるまでを
自由研究にしていたっけ
出来が悪くて自分でも嫌になったけど

小さな冒険を終えた夏休みも終わり
クラスに並ぶ見慣れた顔とまた過ごす日々
日焼けした顔も今だけのこと

背を高く伸ばした
とうもろこしのヒゲを毟り取って
むしゃむしゃと食べてみても
きっと美味しくは無いだろうなと
けれどそんな無茶なことをやって
心から高笑いしたい僕がいて

小さな向日葵が何本もたたずんでいる
まるで顔の丸い柔和な仏像が
群れて祈っているようだった