風のささやき

春の午後の散歩に

たんぽぽの白い綿毛
空に飛ばしたいと
指を差して子供がせがむ

そのたんぽぽを摘もうと
子供の目線にかがんで眺めた
目の前のたんぽぽは大きく見えた

君たちはこんなにも
地面に近いところにいるのだ
草の一本 花の一輪
どんなにか大きく見えて
どんどんと踏みしめる大地は
どれだけ確かなものだろう

よく見れば風が
草原を渡る足跡も
はっきりと見える
踏みしめられた草は
楽しそうにお辞儀をする

空はずっと遠いけれど
それは僕らとて同じこと

さっき追いかけて歩いた野良猫も
毛並みのふさふさとした散歩の犬も
どれだけ大きな生き物に見えるか

道に落ちた煙草の吸殻や
空き缶にもよく気がついて
拾い上げて怒られたりもする

生きることは遊ぶこと
沢山のものが
その手に触れる 目に止まる
遊び相手ばかりのときを
ゆるりと生きる君たちに
大人は列をなす巨人

そんな巨人の群れが
楽しそうな笑顔を浮かべて
機嫌よい雲のようにのどかであれば
君たちはいつでも
心おきなく遊んでいられるだろうに
何を怖がることもなく

まずは青空と君たちの間の僕が
そうならなければいけないと心から思う
笑顔でいるからねと
子供たちに約束をした春の午後