風のささやき

夏の庭で

3歳になる甥が急に足を止めた夏の庭
何だろうとその足元を眺めると
無防備なミミズが一匹
炎天下の地面に迷いだしていた

その周りには餌を求めた蟻が列をなし
ミミズの横腹に噛み付いたりしている
言葉泣き叫びでその度に身悶えるミミズの
体が激しく波打っている

その様子を不思議そうに眺めている子供の
横にいる大人の僕は知っている
残酷なことがゆっくりと進行していること

強い日差しに体中の水分失ってしまうかその前に
たくさんの蟻にいたぶられて力尽きるか
二つに一つしかないであろうミミズ

僕の脳裏にはっきりと浮かんでいる
色の変わった干からびたミミズの死体

子供はミミズが体をくねらせるのを
不思議そうにじっと見ている
動かない子供の横にかがむと
こんなにもミミズは近く
肌にはまだ艶を残している

「遊んでいるね」という子供の
不意をついた言葉にギクリとしながら
「そうだね、遊んでいるね」と
裏腹な言葉で追従する大人の困惑と

いつから大人は
楽しい御伽の世界から追い払われて
生と死の合間に迷いたつのか
そうして残酷な出来事にも
心を動かされない修羅の心の様相を持って

楽しく踊っているのであろうミミズから
次の楽しい出来事へと心を躍らして
僕の手を引き歩き出す子供

急に立ち上がった僕の頭には
鈍い漆黒の塊が居所を失い
バランスを失った僕は
ふらふらとよろけていた