風のささやき

名残の雪

名残の雪が一頻りこの町を濡らした
多くの人がそれとは気づかずにいた
あまりにも微かな時間の挨拶

それでも気づいた人の心
さざなみだてるには十分ではあった

「今日は寒いね。上着を着てないと寒いぐらいだよ」
「さっき雪も降ってたしね」
「困っちゃうね、嫌だね」
 
無用の長物の雪にはもう飽きて

「もう今年もこれで雪も終わりね」
「いつ冬タイヤを交換しようか」

季節の変わり目に忙しくなる人達もいて

「傘無いからとりあえずフードで覆っておけば」
「それと毛布、毛布」

乳母車には即席の屋根が設けられ
眠っている赤子は
風邪の季節から逃避した

「もしも雪がすべてを休ませようと
 優しくてふるのならば
 人に嫌われることはどんなに切ないことだろう」

独りいることの思いも高ぶり

「今日は寒いから家の中で我慢してね」

そんな言葉には耳を傾けない
双子の子供は
自分の靴を持ってきて
外に行きたいとおねだりをしている

いつの間にか顔を出した土筆も待ってる

一頻りの会話のやり取りの後に
一つの季節は終わり
新しい季節の訪れに
人の心には新しい思いが芽吹く