風のささやき

小さな翼

まだ開ききっていない家の扉の間から
一目散に外に駆け出したお前たち
そんなにも自分の足で外に出ること
待ちきれないでいたのか

朝から僕らの靴を持ってきては外に行こうと
せがんでいたのは確かだったが

そんなにも楽しそうに
弾むゴム毬のように駆け出していくなんて
この重い扉をもう少し早く
明るい春の陽射しに向って
開いてあげられれば良かったね

まだ汚れていない靴も
大分お前たちの行動には慣れてきたようで
よたよたとしたその足取りに
何とかついていっている

その後姿追いかけながら
ハラハラとしている僕らは
「ほら転ぶよ」と声をかけ
その通りに転んだら
「だから言っただろう」と言い

けれどそんな言葉にはお構い無しに
また起き上がっては走り出す
その小さな背中を見ていると
まるで大人が失ってしまった
人生を軽やかに駆け上がって行く
小さな羽根がついているようだ

年を重ねた分だけ僕らは
すべて悪いほうに諦める癖
身につけているのかも知れない
喉元を通る前の熱さ想像して
懲り懲りとして

それからあからさまに
地べたに転ぶことへの抵抗感も

お前たちを見ているとばからしくなるよ
転んでも直ぐに立ち上がればいいし
一生懸命な姿は
どんなあざけりも寄せ付けはしない

僕もまだまだ新しい試みに
立ち向かわなければいけないね
一つ一つゆっくりとこの身で覚え
間違いを何度も重ねながらも
死ぬまで生に終わりはないのだから

いつの間にか
遠くまで行っているその後姿に
置いてきぼりにされないように