風のささやき

雪の夜に

いつになったら雪は
止むことを知るのだろう

さっき一瞬
降ることを止めたのは気まぐれ

白い雪に奪われた風景へ
歩き出す程の力は持てずに
家の中に押し込められた
炬燵に入れている足が火照っている

空を舞う雪の軌跡
その気配にじっと耳を澄ましていると

やがて自分の中に
いつの間にか降り積もってしまった
思いの数を聞いている
(シンシンとした夜
 半纏を着て
 祖父と祖母の間で眠った夜は
 とても暖かだった)

新しい雪に白く塗られて
姿を消して行く昨日の雪にも似て
時間と共に僕の心の上に
重ねられる思いの数

今日の思いは明日の思い
その先の明日の思いに上書きをされ
やがて押しつぶされてしまう
いつの間にかもう表に
浮かび上がる勢いはなくして

今はすっかりと
僕の中に眠る若き日々の思い
時折は夢の中で
おぼろげな姿に出会う時もあるけれど

目を覚まさずに
眠り続ける思いもやがては
春の暖かな陽射しに
雪が姿を失うように
世界へと解け出す時もあるのだろうか

今は
その姿は想像もできずに

いつになったら雪は
止むことを知るのだろう

僕はこれからどれだけの思い
眠らせて行くんだろう

 ○

いつになったら雪は
止むことを知るのだろう

もう屋根も辞めて欲しいと
耐える力を失いそうな悲鳴をあげ

降り積もることを止めないのであれば
このまま穏やかに軋むことなく
すべてが降り積もればいい

僕のヒリヒリとした思いも
やがては静かに埋もれてしまうものであれば
ただ穏やかに降り積もればいい