風のささやき

ある朝の涙に

起きたばかりのお前の顔が
今朝一番の涙に濡れていた
その轍なぞる
カーテンからの朝の光

今日もまたお前の
涙と笑いとの一日が始まる

腹が減ったと涙し
乳が飲みたいと涙し
眠くなれば涙し
機嫌が悪くなれば涙し

その合間を埋めるような笑顔
そうして束の間の静けさ
くれる眠りの後の涙と

二つの間を行き来する
その表情は見るに飽きることはなくて

まるで風景の微塵
洗い流す通り雨のような
軽やかな涙は
お前の綺麗なまなこから
溢れてはポロポロと零れ

その頬を洗い
母の手を洗い
乾く間もなく
この父の手も洗われ

睫の間にはまだ涙が留まっている
朝日を受けた耳朶が赤く透けている
一度も剃ったことのない顔の産毛は
金色の草原のようだ

僕は指先で涙の跡をなぞり
桃のように丸々とした頬に
かぶりついてみた
口に広がる冷たいしょっぱさが
何とも綺麗なものに思えた

―お前の涙がこれからも
 綺麗なものであることを