風のささやき

夏の午後のまどろみ

レモン色をした 太陽に染まる 夏の午後は
天使も 飛ぶことを厭う
まどろみの支配する 時間

一時は 肉食獣であることをやめ
草食動物の 黒く優しい 目をして
美味しい 葉っぱの形に
思いを めぐらしている
柔らかな 幸いの 夢を見る

大樹の木陰 千手の風が
手を合わせている その念仏を
聞いている 葉っぱが
静けさに耐え切れず くしゃみをし
揺れる そこは 木洩れ日の住処

ソーダ水の 炭酸が
湧き上っては 少しずつ
跡形もなく 消えて行く
誰も口を つけなくなった
赤いストローの グラス
解け出した氷が 立てる音は
南極の氷が 解ける音の赤ん坊の音

そのテーブルの上 確かに
まだかすかに漂う 笑い声も
炭酸の泡のように いなくなってしまうことを

聞いていた 僕の耳には
物憂い 喪失感が押し寄せている
僕も 僕もと
すべてが 消えて行くことを
その消息に 伝えて行く

僕はまた 目が開けられない
消えていった 炭酸の
かすかな喉越しを 恋しく思う
汗が一筋 僕のどこからか
流れて 行くだけ