風のささやき

午睡に

君の手が和らぎわたる初夏の午後
僕の額に触れているのは君の手か
夏の陽射しなのか
僕は分からなくなる

僕はどうしてここに横たわっているのだろう
もう忘れてしまった遠い遠い道のりを
あなたは知っていて
それでも僕を慰めてくれる
あなたの手は風でもあったのかもしれない

飲みかけの麦茶に確かにさっき
僕の喉は潤っていた
けれど僕の渇きが
そこで止まることは
この先もないのだろう
コップだけが汗をかいて満足だと注げている

人のよさそうな顔をした老人が二人
家の前で日常の挨拶をしている
屈託の無い笑顔で
確かにその人たちにも
少年の日があった

今日も暑いですねと
頭上から降るその陽射しの強さに
僕は家の中で横たわっているんだ

いつの間にか太陽に染まらなくなった
白い手足からは
大地の香りはしなくなっている

そういえば西瓜が
冷蔵庫の中にはあったっけ
あの種を庭に吐き出しながら
頬張っていたときもあったっけ

この昼寝から覚めたのなら
その西瓜を食べようと思うが

僕はもうこの午睡から
そちらの世界に帰りたくはないと
ほんとうは思っているんだ

君の団扇の送る風は
何故そんなにも規則的で
迷うことがないのだろうか

額に汗が流れて行くのを
僕は気づかない振りをして
目を瞑ったままだ