風のささやき

トマト

雪のちらつく間に差す
太陽は殊更に白く眩しく

僕は湯むきしたトマトを手に
その皮を剥いでいる
スルリと顔を出すトマトの赤い実は
新生児の頬っぺたのようにきめが細かい
僕は包丁を置いて
陽を浴びた手の中のトマトを眺めている

これが僕らに命をくれる
瑞々しい力なんだ
内側には滋味を蓄え
赤い丸みを空間に際立たせて

白い湯気を吐き
やかんが沸々と湧いて
麦茶ができあがったようだ
もう少し煮出したら
芳ばしい色も濃さを増すのだろう

さっきまで泣いていた二人の赤子は
ミルクでお腹が一杯になったのか
満足気な顔をして
すやすやとまた眠ってしまった

やかんだけが
音を立てている静かな部屋で
僕はトマトを白いまな板に置き
包丁に力をこめる
「痛い」という
小さな悲鳴を聞いた気がした