風のささやき

初夏の風景に

僕の眼差しが透き通って行くのは
頭の上の緑が風に楽しそうに揺れるから
その合間から見える青空の色が美しくて
こぼれる光が目の上で遊ぶから

夏の風に足首をつかまれたように
動けなくなる僕の瞳は
一瞬ごとに表情を変える
タペストリーから目が離せなくなって

その編手のしなやかな指先を
せっせと動く不思議な手の営みを
光る編み棒と巻き糸の数々を
見てみたいと思っているから

透き通って行く眼差しからは消えていく
僕を取り囲む灰色のビルの色合いも
列を成す数々の車の姿も
そうして通り過ぎていく人々の姿も

僕の中の時間も序列を失くして
自意識過剰の日常の奥に閉じ込められている
幼い時分の陽射しの匂いする楽しさが
いつの間にか頭をもたげてくる

僕の体も指先から美しく透き透ってしまい
解きほぐされた糸の先のように
風の中に乱れていって
この風景の中に編みこまれてしまえばいいのに

見えない両手に絡み取られて
その微笑の意のままに
風や空や緑と編みこまれて
風景に色を成すように

やがては立ち尽くす僕を
怪訝に思う人の群れに体を押されて
僕は透き通りきれない体にまた
日常を詰め込んで歩き出している