風のささやき

小さな生命(いのち)に

世界一可愛いクリオネを見たと君が言った
超音波の写真に小さく写っていた新しい生命
確かにそれは見間違える事なき天使の姿だったのだろう
君のメールの文面からは素直な興奮が伝わってきた

何もなかった君のお腹に突然宿って
僕らと同じ生の時間を小さな鼓動が刻みだしたこと
日々見えないところで成長を続け
人の姿に近づきながら
この世に産声を上げるため
それは確かに奇跡だと思えてくる

僕は小刻みに動く心臓を思い浮かべ
後何回それが打ち鳴らされれば
僕らは出会うことができるのだろうと

この世への期待が鼓動を高鳴らせるのであれば
少しでも生まれ来る新しい生命が
喜べる場所にしてあげたいものだと
何も創りだしていない両手を
しみじみと眺め今更ながらに
反省をしている自分もいるけれど

順調に大きくなってくれるかしらと
喜びは君の中に新しい心配を生み
僕はそんな心配がやがては
喜びの中に取り込まれてしまえばいいと思っている

新しい生命の小さな手が
僕らの指先をつかむ感触を
しっかりと胸の奥に感じ取れる瞬間の喜びに