桜の咲く頃に
ほころび始めた桜のつぼみは いつ咲く心積もりを決めたのだろう 開き始めれば走り出した子供のように 待つことを知らず 陽射しに白く溶け出してしまいそうだから 青い空はしっかりとその色で縁取りをしている 短い命の桜の花だから 悪戯をするな風よと 命ずる僕の言葉を無視して 洗い立てのシャツをなびかせるように 無造作に花を揺らす風に 舞い降りてくる花びらには 淡い春の静けさがそっと手を置いている 僕を透明な空気のように すり抜けて花びらは 無尽蔵にも見えてきっと限りがあり 夢ほどにも淡くなる桜の印象は 目覚めたときのため息に消されながら また普段の暮らしは続いて行くから 桜の印象に震えられる胸の 無二なひと時を ありがたく思い桜に礼する