風のささやき

春の風邪

あなたが咳き込むたびに
その激しさに驚いてしまう
空気をすべて吐き出す 風船のように
あなたが萎まないか心配になる

春の風邪は意地悪だ
窓の外には肌触り良い陽射しが
すべてのものを誘い出そうとする
そよぐ風は沈丁花の香りに上品だ
走る自転車は羽のように軽い
買物袋も楽しそうに揺れているのに

あなたの体だけは火照り
そこだけが一足飛びに
暑い夏が来てしまったようだ
寝言とも溜息とも分からない寝息
あなたの喉の奥には
奇妙な生き物が住み着いて唸る

熱にうなされて 夢は
砂漠の蜃気楼のように
朦朧としている
横たわっているだけなのに
額に汗が伝わる

ベランダには三日前に買って来た花が
鉢植えのままで寂しそうだよ
台所のイタリアンパセリも
だらしなく伸びているし
沸騰した薬缶さえ不機嫌だ

あなたといつものように
たわいもない話で笑いたい
一人 テレビを
眺めるだけではつまらない
目をどんよりと 退屈に身をゆだね

家の中のすべてのものが
あなたの元気 待っているよ
早く意地悪な風邪を治して
家の中の調子を取り戻して

太陽の陽射しに
誘われるがまま
春を ゆっくりと
散歩をしようよ