風のささやき

秋の火守り

ようやく白い煙が立ち上ってきた
どこまで燃え上がっていいものかわからず
まだおずおずとしている炎を
そっと誘い出すように手の枝を動かす

今朝の雨に濡れて
乾いていない薪が燃えまいとする
自分だけは大丈夫なのだと信じるその思いにも
炎は容赦なく襲いかかり
抵抗は無駄な試みであったと
赤い炎の舌が意地悪げに伝えている

炎に風が通ると燃え上がる
そこには確かに風の通る道がある
人の目には見えない一筋の道
その道に沿って炎が燃える
風の道を作り出そうと薪を動かすと
風が手に懐いてくる

炭になった薪は夕日のように赤く
顔が音も無く焼け焦げる
いつの間にか胸には
また懐かしい静けさが戻っている

とても満たされた人の根元にある静けさ
生きてあることの充足
それは胸にただ感じ取ることができるもの
語り継ぐ術も無い炎の温もりと似ている

薪は炭へと姿を変えて
炭はやがて真っ白な灰になる
何の形状も留めずに混ざり合ったものたちが
仲良く炎の中に横たわっている
空に消えて行く煙だけが
その余韻として漂っているだけ

川のせせらぎがいつもよりも大きいようだ
昨日の雨はそんなにも降ったのだろうか
もう木の葉もだいぶ落ちて
秋は深まる歩調を一層に速めるのだろう