風のささやき

秋のベンチに

あなたの肩にそっと 秋の陽射しが手を伸ばしている
まるで背後から 優しくあなたを抱き締めているように
その透明な 腕のしなやかさと比べると
僕の腕はあまりにも 節ばっているから
僕はおずおずと こぶしを握り締めて
膝の上に 手をそっと納めている

あなたの瞳が 時折きらきらと光るのは
どこかの小川のせせらぎが そこに宿っているからだと
僕は不思議な思いがして ずっと覗き込んでしまう
それをあなたは訝しく感じて 笑い出すから
僕は ぶっきらぼうな様子で空を眺めてみる

空の高い処の青さに 唇を当てていると
その薄い色合いが まるで草笛のように
独りでに 僕の胸を震えさせるのが分かる
僕のどこに そんなものが潜んでいたのかと
自分でも 驚くばかりの高鳴りさえも

吸い込んで静かな 空の広さ
何を物差しに 図ればいいのだろう
しいて言うならば 雲一つ 雲二つ と
けれど雲は 悪戯に姿を変えるから
何の尺度にも ならなくて

呆れ返って 見渡す木立は
秋の気配に うっとりとしきって
僕の視線の 絡まる余地があまりにも少ないから

僕は目線を また
あなたの方へと 注いで
あなたの黒髪が まだ
陽射しに抱かれていることを 確かめてみる

端から見れば 秋の午後にただ
陽射しを楽しんで 座っている二人

どこにでもある 風景の一こまだけれど
あなたが僕の 傍らに息づき
当たり前のように 僕とベンチにあることが嬉しい

それで僕は 平和な気持ちになって
青空を ゆっくりと眺めていられるんだ

肌を吹く風が カシミアのように優しく
僕は肌の感覚と 穏やかな気分とに身を任せるだけ
何の強がりも言い訳も 言う必要もないから
ただこうして 黙って座っているんだ

ああ 時間がほんとうに ゆっくりだ