風のささやき

秋のベンチで

ここは風の一番の通り道
白いベンチに座る
だからコスモスが
悔しげに首を横に振って
イヤイヤをしているのだ

今日のところは許しておくれ
こんなにも澄んだ
秋の午後を楽しむ時間
わずかでいいから
お裾分けをしてくれよ

柵に休むトンボは
呼吸に合わせて羽を動かす
すべてのものの気持ちは
秋の澄んだ気配に通い合い
溶け込み流れるようだ

懐かしく 温かくて
大げさではなくて
涙が滲み出す 素直な歌の調べに似ている
誰から教えられたのでもなく
体の奥で知っている

その調べの 流れ込む先の
空はいつの間にかこんなにも高く
愛想をつかして 離れてしまったのか
それとも分けあり顔で 追いつくのを
待っているのだろうか
そ知らぬ振りをして待つ母親のように

さっきまでは山裾にいた
眼鏡の右端の雲が
いつの間にか
左端にたどり着いた

そのまま流れて雲は
どこまでたどり着くのだろう
その物語の終わり
見定められるほどには
許された時間は短い

鮮やかな羽のアゲハチョウ
その蝶が連れてきた子供の声が
秋の静けさを破る

子供はいつでも
すべてのものと通じ合っている
秋の静けさを必要とはしない

ベンチから立ち上がる僕に
ほっとするコスモス
今度は嬉しそうに
首を縦に振って見送った