風のささやき

産着を着た君に

白い産着を身をまとった
何一つ持たない君が
人をそんなに引き寄せて止まないのは何故だろう

まっすぐ伸びた指先や
大地を踏みしめる力のない足も
僕の手足とは比べ物にならない小ささなのに
見入らずにいられないのは何故だろう

さっきまで天使が君をあやそうと
その額に触れていた余韻のように
赤らんだ顔の君は
祝福の時間に包まれて
だから君を取り囲むすべての人が
笑顔でいることを
自然と止められないのだ

僕はこわごわと君の髪に触れて
その確かな存在を指先に感じていた
新たなそうして確かに唯一の
この世を歩き出した存在に

僕は少し嫉妬にも似た気持ちで
君の姿をみていたんだ
僕が失っている大切なものを
生まれたばかりの君が
軽々と身にまとっているから

泣き止まない君と
僕とが一緒に移った写真を
きっと君が大切な人と一緒に見るようになる時にも
人に笑顔を分け与えられる力
君の上にとどまっていることをと思う

君の顔を見ていると
僕は少し涙ぐみそうにもなって
例えば両親が僕に思った期待
僕が無事に生まれた時の喜び
今の君には分かる必要など
何一つないのだけれど

きっと言葉を持たない君なのに
もう透明な言葉で
僕に話しかけてくれているんだね
その優しい気持ちを
すべてのものに注ぎ続けてくれればいいと思う
   
君の長い道のりは
たくさんの笑顔との出会いの中で
豊かになって行くのだから