風のささやき

夏を招き入れて

外では風が強く鳴っていた
その物音が少し恐ろしくさえ思えるぐらいに

わずかな隙間だけを開けていた窓辺には
カーテンがヒラヒラと舞っている
その裾は陽射しに明るく縁取られて

きっとカーテンも初夏の風を招き入れたくて
金色の合図を送っていたのだろう
僕は窓に手を当てて
勢いよく風を招き入れる

一思いに僕の部屋に飛び込んでくる初夏の風
小さな間取りには戸惑っているのか
何度も何度も部屋の中で宙返りをして
僕の飲み残しの麦茶のコップに
青い冷汗をかかせたりする

僕は手を差し出し 僕の部屋の
新しい客に挨拶をして
たくさんの自慢話に耳を傾ける
「さあおいで初夏の風よ
 もっときかせておくれ
 君の長い旅の話を」と

そうしてその後ろに立って
じっとしたままの眩しい夏よ
僕はお前も一緒に招待したつもりだったから
早く僕の部屋に入っておいでよ

波の音や風鈴の音
蝉の声さえも押し込めた青空色の玉手箱を携えて
今年は何を僕に届けに来てくれたの

早くその中身を僕に見せておくれよ
もったいぶったリボンははずしてさ

水槽の中の赤い金魚も
ドキドキとしながら横目でこちらを見るばかり
僕は額から湧き出してくる汗を心地よく感じながら
夏の眩しい手元をそっと覗き込んだ